Research

研究内容について

【研究室の軸】
長塚研究室は2013年に発足した、統計学と機械学習の理論と応用の研究室です。当研究室が大切にしているのは、確率変数や分布を測度論に基づいて根本から理解し、問題に合わせて理論をつくり、分野やデータの種類を問わず応用することです。根本からの理解、理論の構築、あらゆる問題への応用の流れ統計学や機械学習の手法を動かすだけなら、ソフトウェアや生成AIでもできる時代になりました。しかし、手法がうまく働かない問題や、長く解決されずに慢性化している問題の中には、データが手法の前提を満たしていないことに原因があるものが少なくありません。そのとき必要になるのは手法の使い方ではなく、「確率変数とは何か」「分布とは何か」という根本に立ち返って、モデルと方法を組み立て直す力です。

学部3年生向けの「数理統計学」では、σ集合体・可測関数・ルベーグ積分・ラドン・ニコディムの定理など、確率変数と分布を数学的に定義する内容から教えています(シラバス公開中)。

【主な研究】
(1)非正則問題に対する統計的推測
最尤法をはじめとする標準的な統計的推測は、分布がとりうる値の範囲がパラメータに依存しないことなど、いくつかの前提(正則条件)のもとで成り立っています。下限(位置母数)をもつ3母数ワイブル・ガンマ・対数正規・逆ガウス分布や、極端な値の解析に使われる一般化パレート分布はこの前提を満たさず、推定量が存在しない、一つに定まらない、通常の漸近理論が使えない、といった問題が起こります。当研究室ではこの問題に取り組み、推定量の存在・一意性と、一致性や漸近分布などの漸近的性質を数学的に示したうえで、区間推定と検定までを構築してきました(Annals of the Institute of Statistical Mathematics、Journal of Statistical Planning and Inference、Computational Statistics & Data Analysis など)。たとえば一般化パレート分布では、パラメータの値によって非正則性が生じ、通常の最尤法が使えなくなります。そこで、非正則性を招くパラメータを標本の変換によって消去し、新たな尤度を構築しました。この方法による推定量は、すべてのパラメータ値において、どのようなデータからもただ一つの値として求まり、一致性をもちます。さらに、その漸近的性質にもとづいて区間推定と検定を提案しました。この研究は、McMaster大学の N. Balakrishnan 卓越教授との共同研究です(AISM, 2021)。現在は、同じ考え方で、より一般的な非正則問題の解決を目指しています。

一般化パレート分布の確率密度関数。とりうる値の上端がパラメータによって動く

(2)レヴィ過程の統計的推測
レヴィ過程は、独立で定常な増分をもつ確率過程の一般的な枠組みで、ウィーナー過程・ガンマ過程・逆ガウス過程・Tweedie過程などを特別な場合として含みます。その法則はドリフト・拡散の強さ・レヴィ測度の三つで決まるため、扱うには測度論に基づく理解が欠かせません。当研究室では、一般化逆ガウス分布や一般化双曲分布で特徴づけられるレヴィ過程のように、密度関数を閉じた形で書けない場合や、観測の時間間隔によって増分の分布が同じ族に収まらない(畳み込みで閉じない)場合も含めて、推測の理論を構築しています。

ウィーナー過程とガンマ過程の標本経路の例

(3)実験計画法
実験計画法は、限られた実験回数で、結果に影響する要因とその効果を効率よく見出すための方法です。どのような実験が良い実験なのかは、多くの場合、自明ではありません。実験計画法では、その良さを理論にもとづく客観的な指標(推定の精度や、効果どうしの交絡の少なさなど)で定め、その指標のもとで良さが科学的に保証された計画を得ることができます。当研究室では、劣化試験・加速寿命試験の最適計画の研究(Lifetime Data Analysis, 2022 など)を土台に、こうした計画の理論の研究へ広げていきます。

3因子2水準の実験で、8通りから釣り合いのとれた4通りを選ぶ一部実施計画

実験計画法のこれから。非正則なモデルでの良い計画、劣化の測定の時点と回数、AIが選ぶ次の実験の信頼性という3つの問い

【研究から応用へ】
推定量の存在・一意性と、一致性や漸近分布などの漸近的性質を示すことは、点推定に保証を与えるためだけのものではありません。推定法が確立し、これらの性質が明らかになって、はじめて次のような技術が理論的に裏付けられ、応用できるようになります。

・区間推定:視聴率調査で、誤差を一定の範囲に抑えるのに必要な調査世帯数を決める。新型コロナワクチンの米国の承認指針でも、有効率の信頼区間の下限が30%を超えることが基準とされた
・仮説検定:実験データから因果関係を判断する王道の方法である分散分析や、Webサイトやアプリのどちらのデザインがよいかを決めるA/Bテストなど。検定統計量の厳密な分布が分からないときは漸近分布を使う
・予測:予測分布が厳密に求まらないときは、漸近分布を使って予測区間を求める
・極値の推定(防災・インフラ):「100年に一度」のような大雨の雨量を、年最大雨量に極値分布などの確率分布を当てはめて推定し、それをもとにダムや堤防で受け止める洪水の規模を定める
・寿命の推定(製品の信頼性):製品の10%が故障するまでの時間などを寿命分布から推定し、その信頼下限を保証期間の設定などに使う
・実験計画:D最適基準やV最適基準にもとづく最適な計画を求めるには、推定の精度を表すフィッシャー情報行列が必要
・異常検知:パラメトリックな方法では、推定したモデルをもとに正常とみなす範囲を定める
・機械学習(生成AI):ChatGPT や Claude のような生成AIの事前学習も、次に来る単語の確率を最尤法で推定する問題として組み立てられている

問題に合わせたモデルと推定法の構築は出発点です。その上に、皆さんがよく知る統計手法や機械学習の手法が成り立ち、分野やデータの種類を問わない応用が実現します。

【応用】
これまで、企業との共同研究やコンサルティングを通じて、電池や燃料電池の劣化・寿命の予測、太陽光発電などに取り組んできました。このほか、材料試験への機械学習の応用、スポーツのトラッキングデータの解析なども行ってきました。また、日本科学技術連盟を通じて、企業の方々に、各種セミナーで80件以上の問題解決の指導も行ってきました。

【企業の方へ】
これまでの業種やテーマに当てはまらない問題も、お気軽にご相談ください。技術相談・コンサルティング、共同研究など、問題の性質に合わせて取り組みます。

【学生の方へ】
数理の根本から学んで自分で理論をつくる力と、それをどんな問題にも応用する力を身につけられる研究室です。学部生と大学院生(博士前期・後期課程)を指導しています。これまでに統計検定、品質管理検定に多数合格者が出ています。進路も多様です(卒業生の進路)。

教員は自身でも株式投資を行っており、その土台にあるのは、大数の法則をはじめとする確率論・確率過程論の理解と、それを現実の問題に生かす力、そして豊富な金融の知識です。ファイナンスに関心のある学生には、確率論・確率過程論の立場から指導できます。

【学外での活動】
International Statistical Institute (ISI) Elected Member
国際論文誌 Lifetime Data Analysis(Springer)、Communications in Statistics(Taylor & Francis)の Associate Editor
デミング賞委員会委員、日経品質管理文献賞選考委員会委員 ほか

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